もふもふの乱

通勤途中に、小学生とすれ違うことがある。

いつものじいじは白いポメラニアンを連れ、孫を学校まで送るのが日課だ。

昔は小学生も小さくてランドセルの方が大きく、
もふもふも飛び跳ねるようにキャッキャと喜んでついてきたものだった。

しかし、いい加減それから何年も経ち、もふもふも落ち着いてきた。

そしてこないだは飛ぶ鳥も落としかねないドッグイヤー、
もふもふはついに小学生の年齢に追いつき、追い越したのち、
じいじと同じくらいの年齢になっていたに違いない。

目の周りが赤く印象もぼやけ、顔の部分だけ毛のつやも密度も薄まっていたように見える。
もふもふは老けたのか?それとも病気か?と思っていたころ。


それは先月のものすごい夏日に起きた。

人間でさえ靴を履いている足の裏から熱くなり、ものの5分で干上がりそうなほどだった。

アスファルトが照り返し、あたりが乾燥した空気で白く見える。

息をするのも、熱風でどうかと思う。


もうこれ以上ムリ!


熱さでへろへろになった時、あのもふもふの一行が現れた。

まだもふもふのあたりはビル群の日陰から出て間もない距離で
刺さるような日差しはものすごく暑かったとはいえ、

累計時間的にそんなでもなかったが
やはり熱いと言わざるをえない天候だった。


(この先の灼熱地獄が延々と5分以上は続くことを、もふもふ、お前は知っているのか。

ああ、私はもうそんな照り返しマックスの砂漠みたいなところへは戻れない。

お前の足もそのもふもふした毛先も耐えられないだろう。)


いま通ってきた熱せられたアスファルトの長い道が脳裏に広がった。

もふもふ達が小学校にたどり着くまで道路のこちら側に日陰はないのだ。


そして、数メートル先のもふもふとしかと目が合ったのは、熱々な道を思い出していた時だったと思う。
もふもふは、私が眼の前まで来た時、こちらにしかと頷いて、
のち、じいじを見て突然止まった。

この何年間で、止まる姿は初めて見た。

引っ張られるリード。


いや、わかるよ。

いい加減、足が熱いから止まりたかったのだ。しかもこの先は砂漠だ。


一方じいじは何にもわかってないようだった。

孫は数歩先を歩いていた。


「じいじ、もふもふは熱いって言ってますよ、この先はすごい熱いですから。」

もふもふの代弁をする。


しかしじいじは、思っていたよりもお年を召していたのか、受け答えがめちゃくちゃだった。


「イヤだって言ってますよ。多分。足がヤケドしますよ。」

「これ以上進むとかわいそうですよ」


隣に通りかかったおばさんが、そうよお、熱いから、かわいそうよね〜。と、独り言つ。

コミュニケーションは成立せず、
じいじはもふもふが熱いと思ってるなんて露とも思わず
前に進んで行こうとしていた。



(もふもふ、これ以上、私は口出しできん。お前の飼い主はじいじだからな。)


じいじにはもふもふが抱っこできるのかも定かでなかった。
これ以上はご迷惑かもしれない、と一応考える。

無事を祈るばかり。

その後、もふもふの姿を見ることはなかった。


まさか、もふもふに何かあったのか、むしろじいじに何か?と思い始めた頃、あの日が夏休みに入る直前の学期末の日だったと知った。

学校が始まり、涼しくなったらまたもふもふ3人衆とすれ違うだろうか。

じいじは変わらず元気で散歩しにくるだろうか。

孫がもう自分は大きいんだからついてこないでよね、って容赦なく切り捨てるだろうか。


この夏、もふもふ達はブーツは必要か、履いたら擦れたりムレたりしないか、少しだけ考えるのだった。


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by tamitamix | 2016-08-10 08:32  

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